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春風と共に ~最悪の出会いと騒がしい日々~

オリジナル小説
このエントリは 4の6の部分 シリーズに 一話完結―オリジナル

一話完結―オリジナル

冬の灯

不純な動機、純粋な恋

幼馴染は油断ならない

春風と共に ~最悪の出会いと騒がしい日々~

放課後ハプニング!

あの娘の暴走は止まらない!

大学二年生の吉澤悠斗は、自分の人生にドラマなど必要ないと思っていた。
朝はギリギリまで寝て、講義に滑り込み、友人と適当にだべり、単位を落とさない程度に勉強する。
そんな平凡な大学生活を送るはずだった。
少なくとも、その日の朝までは。

「やばっ、遅刻だ!」

目覚ましを三度も止めていたことに気づいた悠斗は、ベッドから飛び起きた。
顔を洗い、適当に髪を整え、食パンを口にくわえながらアパートを飛び出す。
春の風は心地よかったが、そんな余裕はない。
大学まであと五分。
全力疾走でキャンパスへ向かっていたその時だった。
正面から一人の女子学生が走ってきた。
しかもこちらも完全に遅刻寸前らしい。

「うわっ!」
「きゃっ!」

見事な正面衝突だった。
二人は派手に転がる。
食パンは宙を舞い、女子学生の鞄からはノートやペンが散乱した。

「いてて……」

悠斗が顔を上げる。
目の前には長い黒髪の美少女がいた。
整った顔立ち。
白い肌。
ぱっちりした目。
モデルのようなスタイル。
だが。

「…………」
「…………」

春風が吹いた。
ふわり、と。
彼女の短めのスカートがめくれ上がる。
悠斗の視界に飛び込んできたのは、淡い水色のパンツだった。
ほんの一瞬。
本当に一瞬。
だが見えた。
確実に見えた。

「見るなぁぁぁぁぁっ!!」

「ぐはぁっ!」

鋭いハイキックが悠斗の顎を直撃した。
大学の正門前で。
朝の人通りが最も多い時間帯に。
悠斗は吹っ飛んだ。

「なんで俺が!?」

「見たでしょ!?」

「事故だろ!?」

「見たでしょ!?」

「はい!」

「素直に認めるな!」

理不尽だった。
だが否定できない。
見てしまったものは見てしまったのだ。
女子学生は顔を真っ赤にして睨んでいる。

「最低!」

「俺が!?」

「変態!」

「だから事故だって!」

「最低!」

語彙が減っていた。
よほど恥ずかしいらしい。
結局、二人は散らばった荷物を拾い集めることになった。
その最中。
悠斗は彼女の学生証を見つける。
そこには名前が書かれていた。
一ノ瀬美月。
経済学部一年。
つまり後輩だった。

「はい、学生証。」

「……ありがとう。」

美月は少しだけ気まずそうに受け取る。
さっきまで怒鳴っていた勢いはどこかへ消えていた。

「その……ごめんなさい。」

「ん?」

「蹴ったこと。」

「見たことに対して怒るんじゃなくて?」

「だって見たでしょ。」

「またそこに戻るのか。」

美月はぷいっと顔を背けた。
だが耳まで真っ赤だった。
怒っているというより、単純に恥ずかしいのだろう。

「まあ、事故だったのは分かってる。」

「ありがとう。」

「でも忘れて。」

「努力はする。」

「今すぐ忘れて!」

そんなやり取りをしているうちに講義開始時間が近づいた。
二人は慌ててそれぞれの教室へ向かった。
この時はまだ知らなかった。
この出会いが、平凡だった大学生活を大きく変えることになるなんて。


……
………

数日後。
悠斗は大学の食堂で友人の佐伯健太と昼食を食べていた。

「へぇー。美少女に蹴られたのか。」

「言い方。」

「しかもパンチラ付き。」

「言い方ぁ!」

健太は爆笑している。
親友ながら腹が立つ。

「それで、その子と再会した?」

「してない。」

「残念。」

「別に残念じゃない。」

そう言った瞬間だった。

「あ。」

聞き覚えのある声。
振り向く。
そこにはトレーを持った美月が立っていた。
目が合う。
沈黙。
三秒、五秒、そして――。

「げっ。」

「げっ、とはなんだ。」

「変態先輩。」

「誰が変態先輩だ。」

「パンをくわえながら突っ込んできた人。」

「そこは否定できない。」

健太が肩を震わせている。
笑いを堪えているらしい。

「お前、知り合い?」

「事故。」
「事故。」

声が揃った。
さらに沈黙。
そしてなぜか美月は悠斗たちの向かいの席に座った。

「なんで?」

「席が空いてないから。」

周囲を見る。
確かに昼時で混雑している。
だが。
他にも席はある。
絶対にある。

「先輩。」

「なんだ。」

「まだ覚えてる?」

「何を。」

「見たやつ。」

「忘れろと言ったのお前だろ!?」

食堂中の視線が集まった。
悠斗は頭を抱えた。
美月は満足そうに笑う。
初めて見る笑顔だった。
からかうのが楽しいらしい。
しかもかなり。

「ふふっ。」

「お前なぁ。」

「先輩の反応面白い。」

「性格悪くない?」

「よく言われる。」

悪びれる様子は全くない。
だが。
笑った彼女は驚くほど可愛かった。
思わず見惚れてしまうほどに。
すると美月が首を傾げる。

「どうしたの?」

「いや。」

「また変なこと考えてる?」

「考えてない。」

「怪しい。」

そう言いながらも、彼女はどこか楽しそうだった。
悠斗はまだ気づいていなかった。
この後輩が、自分の日常をめちゃくちゃに引っかき回す存在になることを。
そして。
からかい合いから始まった関係が、少しずつ特別なものへ変わっていくことを。


……
………

五月も終わりに近づき、大学は少しずつ学園祭ムードに包まれ始めていた。
講義棟の廊下にはサークル勧誘のポスターが並び、広場では出店の打ち合わせが行われている。
そんな中、悠斗は学生会室へ呼び出されていた。

「どうして俺が手伝うことになったんだ……」

大きな段ボール箱を抱えながらため息をつく。
人手不足だから。
ただそれだけの理由で駆り出されたのである。
そして。

「先輩、手が止まってますよー。」

目の前には一ノ瀬美月がいた。
なぜか彼女も同じ仕事に参加している。

「お前もいたのか。」

「失礼ですね。」

「いや、最近遭遇率高すぎないか?」

「それは私も思ってました。」

美月はくすりと笑う。
最初の頃の険悪な雰囲気はもうほとんど残っていなかった。
相変わらずからかわれることは多いが、それも以前ほど嫌ではない。
むしろ。
こうして話している時間が少し楽しくなっている自分に、悠斗は気づき始めていた。

「この資料、二階の倉庫に運べばいいんですよね?」

「そうらしいな。」

「じゃあ行きましょう。」

二人は大量の資料を抱えて階段へ向かった。
古い校舎の階段は少し急だった。
しかも美月はかなりの量を抱えている。

「おい、大丈夫か?」

「平気ですって。」

「絶対重いだろ。」

「これくらい余裕――」

その瞬間だった。
階段の踊り場で。
美月の足がわずかに滑った。

「あっ。」

本人も予想していなかったらしい。
身体のバランスが崩れる。
抱えていた資料が宙を舞う。
そして。

「きゃあっ!?」

派手に転倒した。
大量の紙が雪のように散らばる。
さらに運の悪いことに、その勢いでスカートの裾まで大きくめくれ上がってしまった。
ほんの一瞬。
だが豪快だった。
本人が状況を理解するより先に。
悠斗の視界には、ピンクのチェック柄のインナーが飛び込んできていた。

「…………」
「…………」

数秒の静寂。
美月の顔がみるみる赤くなる。
耳まで真っ赤になる。
そして。

「忘れてください。」

異様に冷静な声だった。

「努力する。」

「今すぐ。」

「無理だろ。」

「無理じゃないです!」

「いや、そんなこと言われても!」

美月は両手でスカートを押さえながらうずくまった。
恥ずかしさの限界らしい。

「なんでこうなるんですか……。」

「怪我してないか?」

「してません……。」

「ならよかった。」

「よくありません。」

「それはそう。」

美月は恨めしそうに悠斗を見る。
しかし怒っているというより、純粋に気まずいだけだった。
最初に出会った頃なら蹴りが飛んできただろう。
だが今回は違った。

「……先輩。」

「ん?」

「笑わないんですね。」

「転んだ人間見て笑うほど性格悪くない。」

「意外です。」

「おい。」

「もっと最低な人かと思ってました。」

「まだそんな評価だったのか。」

美月は少しだけ吹き出した。
悠斗もつられて笑う。
すると先ほどまでの気まずさが少しだけ消えた。
散らばった資料を二人で拾い集める。
その最中だった。

「先輩。」

「なんだ。」

「この前から思ってたんですけど。」

「うん。」

「先輩って意外と優しいですよね。」

悠斗の手が止まる。
思わぬ言葉だった。

「急にどうした。」

「別に。」

美月は資料を抱えながら視線を逸らした。
だが少し照れているようにも見える。
窓から差し込む午後の日差しが彼女の横顔を照らしていた。
その姿が妙に綺麗で。
悠斗は思わず見入ってしまう。

「……先輩?」

「いや。」

「また変なこと考えてます?」

「考えてない。」

「怪しい。」

いつものやり取り。
けれど。
以前とは何かが違っていた。
ただの先輩後輩ではない。
友達とも少し違う。
その曖昧な距離感が、二人の間に生まれ始めていた。
資料を運び終えた帰り道。
夕焼けに染まるキャンパスを並んで歩く。
不意に美月が足を止めた。

「先輩。」

「ん?」

「学園祭の日。」

「うん。」

「よかったら一緒に回りませんか?」

悠斗は思わず目を瞬かせた。
美月も少し緊張した顔をしている。
だが次の瞬間にはいつもの笑みを浮かべた。

「もちろん、変な意味じゃないですよ?」

「その言い方が一番怪しい。」

「ふふっ。」

夕暮れの風が吹く。
長い黒髪が揺れた。
悠斗の胸は少しだけ高鳴っていた。
学園祭まで、あと二週間。
二人の距離は、少しずつ確実に近づいていた。

一話完結―オリジナル

幼馴染は油断ならない 放課後ハプニング!

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