放課後のエンジニア部室、焼けた半田と機械油が混じるいつもの匂い。
その空気に、モニターの映像が割り込む。
AVの電マシーン——振動する電動マッサージ機を押し当てられた女優が白目を剥いてのけぞり、甲高い悲鳴を上げながらイキ狂う映像を、三対の目が凝視している。
再生ボタンを押したヒビキは猫耳ヘッドギアの奥から、無言でみんなの顔色を窺っている。
「説明しましょう!」
コトリが椅子から飛び上がる。
「クリトリスの神経終末は約8000本——亀頭の2倍以上です! 振動刺激による不随意収縮のメカニズムは文献でも報告されていますが、あの反応が生理的なものか演技かは、実測なしには判断できません!」
ウタハがモニターの前に立ち、腕を組む。
「なら検証しよう。今回は我々自身が被験者だ」
白衣の襟を正す。
「操作者の技量で結果がブレる。操作は一人に統一すべきだね」
先生の手に、電マが握らされる。
「今回は先生にこれを持って、私たちに当ててもらうだけさ」
ウタハの声は事務的で、「私たちに」の四文字に躊躇がない。
今回は自分が脱がなくていい——安堵が先生の顔をよぎって、一拍遅れて「私たちに」の重みが追いつく。
血の気が引いた。
「ちょっと待って、僕が三人に電マを——」
「操作者の統一は実験の基本です! 被験者が自分で操作すると力加減にバイアスがかかりますし、前回と前々回の同意書がすでに先例として成立していますから——」
コトリが人差し指を立てて畳みかける。
「……先生の手が、いい」
ヒビキが目を逸らしながら呟いて、前回の同意書がバインダーごと差し出される。
先生が三人の顔を見回す——ウタハは平然、コトリは期待に目を輝かせ、ヒビキはヘッドギアの下で頬を染めている。
断れる空気が、どこにもない。
市販品のテストは呆気なく終わる。
ヒビキが椅子に座って脚を開き、先生が下着越しに当てても「……くすぐったい」の一言。
コトリも「むず痒いだけです!」と眉を寄せて、ウタハが「出力と周波数が足りない」と市販品を切り捨てた。
三人ともスカートを直して、顔色ひとつ変わっていない。
ヒビキが無言でカバンからもう一本取り出す。
外装は市販品と変わらないのに、受け取った先生の手首が重さで沈む。
「……中身、全部作り直した。出力8倍。周波数48段階可変」
ヘッドギアが揺れる。
「……体の固有振動数に合わせる、共振モードつき」
「共振モード!?骨盤底筋群と膣壁の固有振動数に同調させるってことですか!?理論上は振動が体表で減衰せずに深部組織まで到達して——それをクリトリスに直接当てたら——」
コトリが自分の言葉の先を想像して、声が詰まった。
ウタハがヒビキを見据えて、口角だけ上げる。
「開発者が最初に検証するのが筋だろう」
ヒビキがスカートをたくし上げた瞬間、部室の空気が変わる。
猫耳のシルエットがあしらわれた黒のランジェリー——紐同然のサイドラインから華奢な腰骨が覗いて、布面積が極端に少ない。
ヘッドギアの猫耳と下着の猫耳が呼応する、確信犯的な意匠。
「ヒビキちゃんいつもそういうの履いてるの!?」
「……コスプレ用の、延長」
目を逸らしたまま脚を開く。
先生が電マ(改)を布越しに当てると、薄すぎる生地を振動が素通りして太ももが ぴくっ と跳ねる。
それでも「……これなら、まだ」と息を整えてみせる。
薄い布越しに浮き出た形を、ヒビキだけが気づいていない。
コトリが頬を真っ赤にしてスカートを持ち上げると、白地にパステルカラーのリボン柄コットンショーツ。
「こ、これは肌触りと通気性を最優先に選定した結果であって——」
弁明を誰も拾わない。
電マを当てるとコットンの厚みで振動が鈍って、体感はヒビキのランジェリーの半分以下。
それでも腰がもじもじ揺れているのに、本人だけが気づかず「振動の浸透度が段違いですね!」と解説を続けている。
ウタハが白衣の裾をたくし上げる。
リボンもレースもない、飾り気ゼロの白いコットンショーツ。
「下着に機能性以外を求めたことがないからね」
先生が当てても表情を変えず、バインダーにデータを記録していく。
ペンを走らせる指先にブレがなく、白衣の裾が微動だにしない。
「ヒビキのランジェリーはほぼ透過、コトリのコットンは最も減衰、私のが中間。いずれの素材でも布地一枚で有意な減衰が確認できる」
ペンの先で三人の名前を順に指しながら、結論を出す。
「直接接触でなければ正確なデータにならない。全員、下着をずらそう」
「さすがにそれは——」
「先生は操作するだけだよ。何も問題はないさ」
ウタハの声に迷いがない。
自分で自分の首を絞める提案だと、まだ気づいていない。
ヒビキが自分でランジェリーをずらす。
剥き出しの粘膜が蛍光灯の下で、薄く濡れた光沢を帯びている。
「……直接じゃないと、意味ない」
先生が電マ(改)を当てる。
布一枚の壁が、消えた。
パンツ越しの鈍い振動とは別の次元——粘膜に喰い込む振動がクリトリスの表層から下腹部の奥まで一直線に叩き込まれて、無表情が一瞬で崩れた。
噛み殺しきれない悲鳴が喉の奥で鳴る。
先生が慌てて離そうとする手首を、ヒビキの細い指が掴む。
「……離さ、ないで……データ、取らないと……」
共振モードが起動して、振動がクリトリスの表層だけでなく骨盤の奥にまで沈んでいく。
唇を噛んで声を殺しているのに、鼻から甘い呼吸が漏れ続ける。
「……んっ」
噛み締めた歯の隙間から、押し殺しきれない吐息が一つ零れた。
ヒビキの目が見開かれる——自分の喉が出した音に、自分が一番驚いている。
開いた太ももが痙攣しながら閉じようとして、先生の手ごと電マを挟み込む。
電マを通して伝わるヒビキの身体の震えが、先生の掌に直接流れ込んでくる。
「……っ、ん……ふ、ぅ……っ」
声を殺す。殺し続ける。
それでも呼吸のたびに喉の奥が ひゅ と鳴って、先生のシャツを掴む指が白くなるほど握り込まれていく。
「……っ、む、り……イ——」
ぷしゃっ!
しゃ……
言い切る前に小柄な身体が弓なりに反った。
クリトリスの下から透明な液が噴き出して、椅子の座面を濡らしていく。
声は最後まで上げなかった——その代わりに呼吸が止まって、数秒の沈黙のあと、堰を切ったように荒い息が戻ってくる。
華奢な腰が痙攣するたびに、透明な雫が太ももを伝い落ちる。
先生の手首に食い込んだ指が、まだ離れない。
「次は私です!」
ヒビキの反応データに目を輝かせたコトリが、震える手で下着をずらす。
電マが粘膜に触れた瞬間、声が裏返る。
「あっ、これは——パチニ小体とマイスナー小体への同時刺激が——」
共振モードに入った途端、文が完成しなくなっていく。
「周波数が——体の奥まで——あっ、そこ——理論的には——あ、あぁっ——」
知識の鎧が一枚ずつ剥がれて、目を見開いたまま涙が溢れ始める。
「解剖学的に——この、反応は——ひゃっ——制御が——あぁっ——!」
解説しようとする口が勝手に喘ぎ声を吐き出して、コトリの瞳が混乱に揺れる。
椅子の肘掛けを掴む指が白くなって、閉じようとする太ももを理性では止められない。
腰が勝手に電マへ押しつけられていく。
「やっ——だめっ、止まらな——あっ、あぁっ——!」
もう解説のかけらもない。
知識で武装した声が、ただの喘ぎに変わっている。
「……先生、もう少し上」
太ももを震わせたまま椅子にもたれているヒビキが、的確にアドバイスを飛ばす。
先生が電マの位置をクリトリスの真上へ微調整した瞬間。
「あっ——あああぁぁぁっっ!! イッ——イッてますっ——!!」
ぶしゃぁっ!!
ぶしゃっ!!
しゃっ……!
のけぞった背中が椅子の背もたれを蹴って、弧を描いた潮が先生の腕から白衣の胸元まで飛ぶ。
「ひぁっ——まだっ、止まっ——あぁぁっ!!」
ぶしゃっ!!
ぶしゃしゃっ!!
しゃっ……!
痙攣するたびに新しい波が噴き出して、座面から溢れた液が床に流れ落ちていく。
泣き叫びながら腰が跳ねるたびに椅子が がたがた と鳴って、声が嗄れ切ってもまだ喉の奥から引きつるような悲鳴が漏れ続ける。
びくん と大きく一回跳ねたところで、糸が切れたように椅子に沈んだ。
「AVの——演技じゃ——なかった……!」
涙と潮で顔をぐちゃぐちゃにして、呟く。
まだ腰が小刻みに震えていて、自分の体に何が起きたのか整理できていない。
二人の崩壊を見ても、ウタハはバインダーへの記録を続けている。
「興味深い。どちらも直接接触から約90秒でオーガズムに到達している」
ペンを置いて、白衣のまま立ち上がる。
「比較データが不足している。私も検証しよう」
スカートだけたくし上げて白いコットンを横にずらし、椅子に座る。
先生が電マ(改)を当てても、表情は動かない。
「振動の周波数帯が体表では32Hzだが、深部では倍音が生成されている。設計思想が市販品と根本的に違う」
分析する声は淡々としている。
だがバインダーを持つ指先が震え始めていて、白衣の裾の下で組んだ足首が静かにほどけた。
声に混じる呼吸の乱れを、言葉の密度で覆い隠そうとしている。
「ヒビキの共振理論は正しい。体の固有振動数に同調させることで吸収率が格段に——」
記録用紙に書き足された筆跡が、三行前より明らかに乱れている。
「深部到達率はヒビキの実測値と一致して——……コトリの反応時間とも、整合的……だ」
文と文の間に息継ぎが混じり始めた。
首筋に薄く浮いた汗が、白衣の襟に吸われていく。
がくん
言葉が途切れた。
記録用紙の最後の行を、ペンが横一文字に引き裂く。
ペンが指の間から滑り落ちて、床で乾いた音を立てた。
「……記録、を——」
白衣の裾を掴む指が白くなる——それが、ウタハの見せた唯一の乱れ。
声を出さない。
叫ばない。
閉じた唇の隙間から糸を引くような吐息がひとつだけ漏れて——
「……ん……っ」
噛み殺したはずの声が、たった一音だけ零れた。
まつ毛が、濡れた。
太ももの内側が小刻みに痙攣して、押しつけ合った膝の力だけが、どんどん強くなっていく。
……ぷしゃ
瞬きの拍子に雫が一粒、バインダーの記録用紙に落ちた。
椅子の座面を静かに濡らす音だけが、部室に響いている。
イキ狂った二人より、涙の染みと椅子の染みだけのウタハが——一番、色っぽかった。
三人とも太ももを震わせながら、椅子にもたれている。
ヒビキの座面には小さな水たまり、コトリの座面には飛び散った跡、ウタハの座面にはじんわり広がった染み。
三人の反応の違いが、椅子の上にそのまま残っている。
ウタハが震える手でバインダーを持ち直し、最後の一行を書き込む。
「電マによる女性のオーガズムは……実在する。ただし市販品では再現性が低く、エンジニアリングによる振動パラメータの最適化が不可欠」
「……これ、論文にはならないですよね……?」
コトリが涙目で呟く。
ヒビキは電マ(改)を両手で抱きしめている。
まだ太ももが震えているのに、その瞳はもう次の設計図を描いている。
「……改良する。出力もっと上げて、振動パターン増やして……」
「もう改良しなくていいから!」
三対の目が、一斉に先生を向く。
「……次は、先生にも当てたらどうなるか……」
「それだ!感度増幅ジェルとの併用効果も検証できます!」
「男性器への振動刺激データがあれば、比較研究として完成度が上がるね」
先生の悲鳴が、部室に響いた。

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